2010年6月18日金曜日

OTC リギング講座(ダブルラインの力学編)

OTC2010座学@インプスの開催も決まったので(日時はまだ未定ですが)、参加をお考えの皆さんの予習もかねて、今回はカリキュラムの一部であるリギングについてのお話。リギング(Rigging)とはレスキュー用のロープ(ケーブル)のレイアウトのこと。ロープ(ケーブル)とスナッチブロックを使うレスキューは、ソフトカーロープなどを使う直引きよりも手間はかかるが、困難な状況にも対応できるという点ではベストなソリューション。
さて、ロープとスナッチブロックの使い方というと、お馴染みのダブルラインやトリプルラインというリギングが登場する(もちろんOTCでも教えます)のだけれど、現実のオフロードでは理科実験用の滑車模型のように都合良く真っ直ぐなラインでリグは組めない。そこで科学的かつ実戦的に、をモットーとするOTCでは効率の良いリグを組むために「力を計算してみる」手法を推奨している。つまり現実のリグにはどのように力が掛かるのか?ということを考えるのだ。例えば初級コースではこんな話をする…
Q:下の図のように、ダブルライン(ラインの角度は60°)で、スタック車をレスキュー車が約1tの牽引力で引っ張る(青矢印)と、スタック車Bにはどのような力(赤矢印)が加わるでしょうか?力の向きは?力の大きさは?

正解は「もっと読む」でジャンプした先に書いたので、まずは考えてみて下さい。
A:もちろんスタック車を動かす力の向きは、スナッチブロックを介するラインのなす角の2等分線の方向です。力の大きさは、ダブルラインといっても単純に2倍とはいきません。ラインに60°の角度があるからです。答えはおよそ1.73tです。ラインが平行なら力は2倍なのですが、ラインの角度が開くにつれて力は小さくなっていくのです。この力の大きさを見積もるには、まずベクトルを考えます。以下の図で説明します。
レスキュー車が1tの力(F1)で引っ張るとき、ラインのどの部分にも1tの張力が掛かります。なので力はスナッチブロックの反対側にも均等な1t(F2)が掛かっているわけです。ラインの角度は60°で、この力をベクトルであらわすとこんな図になります。F1とF2の合力はF3(赤矢印)となり、これがスタック車を動かす力の向きと大きさを示しています。
力の大きさの計算には図のように補助線(破線)を引いてみると判りやすいです。これで直角3角形ができました。スナッチブロックから補助線の交点までの長さの計算には3角関数(cosですが)を使います。引っ張る力を表しているF1の長さに、cos30°(60°の2等分)を掛けると、0.866になります。スタック車を動かす力F3は、図のとおりこの2倍ですから1.73になりますね。よってこのリギングでは、スタック車が1tの力で引くと、レスキュー車は1.73tで動かされることが判ります。
計算することのメリットは?
角度のついたダブルラインでのレスキューの場合、ラインを引いていくと、スタック車が動くにつれて、少しずつラインの角度が大きくなります。つまりダブルラインのメリットが徐々に減っていくのです。現場ではラインの角度はできるだけ小さくリグを組むでしょうから、その場合この問題は大きくありません。小さな角度から始めれば、先ほど計算したように60°になってもまだ1.73倍というアドバンテージがあるわけです。
でも現実のオフロードではアンカーはいつも理想的な位置に見つかるわけではないし、レスキュー車の位置も足場の良し悪しで限定されてしまうものです。だから大きなライン角を使わざるを得ないときに備えて、「力を見積もる計算」が大事になってくるわけです。
グリーンゾーンは60°まで、レッドゾーンは120°と覚えておこう










「オフロードには関数電卓持って行かないよな~」というご意見はごもっとも。だからここで、一体ラインの角度が何度になったらアドバンテージは無くなるのか、を覚えておきましょう。その角度は120°です。図のように120°になると、レスキュー車の引く力(F1)とスタック車を動かす力(F3)は同じ(アドバンテージ無し)になるのです。
これはcos60°は0.5だから。このライン角度による差を体感的印象で言うと、だいたい60°くらいまではダブルラインらしく感覚的にはほぼ2倍という効果があり、それを越えるとどんどんシングルライン的な頼りなさに変わっていくと表現できる。

120°を越えそうなときはどうするのか?
まずは別のアンカーを探す。120°になるならシングルラインでも同じなので、スナッチブロックは力の向きを変えるだけの用途にして、足場の良いところからシングルで引く。シングルでは引けない場合は、元のアンカーにもう1個スナッチブロックを配し、トリプルラインにするのが現実的。ちなみにこういう変則トリプルラインのリグでは、ここで紹介した単純なcos計算だけでは力の計算ができない(三角関数の総動員です!)けれど、トリプルで力不足というケースは考えにくいので、その話はまた上級者向けとして別の記事に書くことにしたい。

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