最近「サスペンションの記事を!」という希望が多くなったので、不定期連載で書いていくことにしました。4輪駆動車のサスペンションは、オフロードを走行するために、普通のオンロード車には見られない特別な設計方針が盛り込まれている。そのひとつがアーティキュレーション特性だ。第1回はまずこのアーティキュレーションの話から始めたい。
アーティキュレーションは、直訳すると「折れ曲がり」のことだが、オフロードの世界では「前後のアクスルが逆位相でストロークする状態」を指す用語。この特性は、昔は単にホイールストロークが長いか短いかという表現で語られていたが、オフロード走行力学的には、前後のアクスルが逆位相でストロークする時の特性(アーティキュレーション特性)が走破性に大きな影響を持つことから、特別な状態を指す言葉として使われるようになった。
アーティキュレーションは「アーティキュレーション剛性」という基準で評価される。アーティキュレーション剛性が高ければ、そのクルマのサスは小さなアーティキュレーションしか発揮できず、逆にアーティキュレーション剛性が低いと、より大きなアーティキュレーションが得られることになる。今回はまず、このアーティキュレーション特性が実際にどのような効果をもたらすのか?という話から始めたい。まずは論より証拠、究極のアーティキュレーション特性(アーティキュレーション剛性ゼロ)を持つオフロードカーの走行シーンを見て下さい。長いビデオクリップなので、要点だけ見たい方は最初の4分くらいをスキップして下さい。
どんな起伏でも全くホイールが地面から離れない驚異的なアーティキュレーションがお判りいただけただろうか。このクルマはCOOT2(クート)と呼ばれるUTV(多目的ATV)で、車体が前後2分割の構造を持ち、前後ボディを貫通するチューブ状の回転軸(この中にドライブシャフトが通っている)で繋がれている。この構造のおかげで前後のボディは(つまり前後アクスルは)無抵抗に捻れることができる。つまりアーティキュレーション剛性ゼロということになる。
そのため4輪は常に路面に追従し、かつ各輪の接地荷重は常時均等(厳密には左右均等)に保たれている。つまり不整地でクルマがトラクションを失う最大の原因である接地荷重不足による空転が起きないわけだ。アーティキュレーション剛性を低くする(この場合はゼロ)ことができれば、不整地での走破性はここまで向上するということ。
じゃあ4輪駆動車のサスをこのアーティキュレーション特性にすれば良いのか?というと、ことはそう簡単ではない。お気づきと思うが、このCOOT2にはサスペンションはついていない。サスの代わりを務めるのは低圧タイヤなのだ。極低速域ではサスペンションによるショックの吸収はさほど重要ではなく、タイヤの弾性でも代わりを務められる。またサスが無いおかげで自由なアーティキュレーションが得られているわけだ。
ところが一度速度が速くなると(ほんの時速15km/h程度を越えると)サス無し車ではクルマが跳ねてしまい、接地性が極端に低下する。そうこのCOOT2は低速専用に特化したクルマなのだ。ある程度車速が上がっても走れるように、この種のシャシーにサスを加えたタイプの車両も存在するのだが、真ん中で自由に回転する分割シャシーは捻れ剛性もゼロなので、やはり安定した高速走行は実現できない。
このCOOT2の話は、あくまでもこの先の連載で、オフロード走破性の高いサスペンションとはどういうものかを考えていく上で重要な、アーティキュレーション剛性とはどういうものか、を知るための基礎知識だと考えて欲しい。なおこの油圧モーター駆動で4WSというCOOT2自体に興味を持った方は以下のURLでホームページをご覧になって下さい。
「オフロード走破性が高いサスペンションとはどういうものなのか」サラッとシンプルな
返信削除問いかけが本当に興味深く面白いです!
IMPSゼロラインサスキットももっともっと性能向上せねば四六時中考えるようにしているのですが、、、
ありがとうございます。サスペンションの話を読んでもらうのに必要な基礎知識から紹介しています。この先書いていく予定の話題は、きっともっと意外で興味深いものになると思いますので、お楽しみに。
返信削除ゼロラインの次期プロジェクトは頑張ってくださいね。アレはとても難しい技術なので、これから随分勉強しなくてはならないと思います。でもレーシングショックのチューニングをゼロからマスターできたのだから、今度も…と思います。日々勉強ですね。