2011年2月8日火曜日

「寒い」を科学する ハンドウォーマー(Hand warmer)

前回「防寒の仕組み」記事に使った写真に白金カイロが写っていたのを見つけた人がいて、「白金カイロの話があるのかと思ったのに」とおっしゃるので、少し紹介することにした。私がカイロを使うのは、手のひらや指先の感覚を温存するため。いつもポケットの中にカイロを忍ばせて、手を暖かく保つようにしています。
モータージャーナリストという職業柄、ステアリング感覚の評価は大切なのですが、冬場は試乗車の撮影待ちなどしているうちによく手が冷えてしまうのです。寒さに晒されると人体は末梢の血流を低下させて放熱を防ぐ仕組みなのですが、手先への血流が減少するということは感覚器への酸素供給も減ることを意味します。それによって指先の感覚器は機能が低下してしまうのです。

カイロは指先感覚を確保する
指先の感覚が鈍ると都合の悪いことは思いの外多くて、釣りをする人ならラインを巻いたり結んだりに苦労したり、小さなボルトやナット相手の細かな仕事はとても難しくなります。細引きの結び目を解いたり、とげ抜きを使ったりなど、普段当たり前にこなしていることができなくてイライラするものです。
また指先感覚が低下していると、作業中の注意力が低下します。手仕事というものは力加減(これは圧点からのフィードバックに依存)が大切ですが、手が冷え感覚器の機能低下が生じていると、これが上手くいきません。ナイフで木工中に手を切ってしまったりするのはそのためです。
指先感覚を良く伝える薄手の作業グローブは、防寒性能はイマイチですから、時々手を温めてやらないと細かい仕事はできません。(以前紹介したGorgonzのグローブが呼気を吹き込んで暖める仕組みを持ってるのもこれが理由)そんな悩みを解消してくれるのがハンドウォーマー(カイロ)というわけです。
いわゆる使い捨てカイロとの違いは、白金カイロの方が熱量(5~10倍)も表面温度も(20°C程高い)上回り、冷えた手を素早く温める機能や酷寒時の有効性がより優れている(外気温ー40°Cでも暖房効果がある)ということ。また燃料残量が減っても最後までコンスタントな温度を保持できる点も、時間経過とともに温度が低下する使い捨てカイロより優れている。つまりヘビーデューティということですね。
白金カイロって何?
白金カイロとは、プラチナ触媒を使って、燃料であるベンジンと空気中の酸素を(酸化)反応させ、その反応熱を利用する懐炉のこと。"ハクキンカイロ"というのがオリジナルを作りだした会社の商品名で、私が使用してるのもこのブランド。
大きなオイルライターのような形状の本体は、ジッポーライターのように真鍮板材から深絞り加工で作られており、中綿入りのタンクにベンジン(ジッポーは専用燃料だが)を蓄える構造。タンク中綿から本体上部の触媒部分へは浸透圧によって燃料が供給される。プラチナ触媒はグラスファイバーマットに粒子として付着させられている。この触媒マットを備えた反応部分は1シーズンくらいで性能低下するが、数百円という安価な交換部品だ。(これはネット通販でも買える)ちなみに燃料のベンジンも500mlボトルが数百円。
プラチナ触媒でのベンジンの酸化反応は300~400°C程度、炎を伴う燃焼と違って、ゆっくりした反応なので要求される酸素量は少なく、衣服の中でも安定した反応を保つ。ベンジンの酸化で生成されるのは2酸化炭素と水であり無害なもの。使用時真鍮ケースの表面温度は80°C程(気温10°C無風状態)の熱さなので、カイロ本体をフリースなどの布袋(製品に付属)で包んで使い、やけどしないよう注意が必要。布なら包み方によって厚みを変えることで、表面温度を調整できる。
触媒による反応なので、ベンジンとプラチナが触れるだけで反応するのだが、ベンジンに対するプラチナの触媒作用は常温では活性でないので(約130°C必要)、カイロを使用し始めるときだけはマッチやライターの火で触媒部を軽く予熱してやる必要がある。私の愛用しているハクキンカイロには触媒部の横に(ちょうどジッポーのミニチュアのような)灯芯とフリントが備わっていて、ここで着火して触媒を余熱することができる。灯芯の炎はケースのキャップを装着することで窒息消化される。
気になる燃費は、1ccで1時間弱くらい。私の使用してるタイプ(薄型)は容量18cc(付属計量スパウトで計る)で、着火から12時間くらい発熱を続ける。燃料のベンジンはどこの薬局でも入手できる。なお他社製カイロ用燃料(ジッポーフューエルなど)も問題無く使用できる。
どんな用途に適するかというと、ハンティング、アイスフィッシングなど指先感覚の保持が必要だったり、冬期に手を濡らす作業に重宝する。素手で金属や水気のあるものに触れたり、ロープや細引きを使う野外整備やセーリング等枚挙に暇がない。また糖尿病を患っている人は凍傷になりやすいので、手近に暖房の得られないアウトドアでは、カイロという熱源は「安心」を買うという意味でも有益。

ハンドウォーマーをAmazonで探す



6 件のコメント:

  1. 関根 優太2011年2月9日 0:46

    なるほどです。知らなかった白金カイロ。白金で触媒とくれば自動車の3元触媒しか想像していませんでした、、、記事内で約130℃のグローが必要というのが面白いです。
    何でも使い捨てじゃなく使い込んでいる物は使っていて格好良いです!
    記事に近い写真も非常に見やすいです。雑誌面の1ページの断片を読んでいるかのようです。
    ちなみに、カイロを置いているチェアーはもしかして、、、
    ハーマンミラー社アーロンですね。メッシュ地ですぐ判明しました。良い椅子です。余談でした、、、

    返信削除
  2. 椅子見てましたか。カイロの写り込みを回避できるアングルを探すのに、曲面の上に置いたのです。
    ちなみにこのネタをリクエストした人はLRMのT氏です。彼も触媒ってあたりにツボがあったみたいです。

    返信削除
  3. BMをお持ちなんですね!もう手に入らないので希少品ですね。

    返信削除
  4. 本体が薄型というところが特に気に入っています。触媒部分は継続供給されているので、使い続けていくつもりです。
    アレの生産終了は、多分金型コスト削減なのでしょうね。
    製品の価格も安いし、次買うときに少し大きくなっても、使い勝手は別に文句はないですね。良い製品だと思います。

    返信削除
  5. 本体とベンジンカップの間にあるのは、携帯用オイルタンクでしょうか?良さそうな製品ですね。気になります。

    返信削除
  6. それのことを書き忘れてました。ご推察のとおり携帯用タンクです。「お泊まり」のとき持参するようにしてます。ブツ自体はジッポーのライター用アクセサリーなんです。
    少量の燃料を携行するには丁度よいのですが、カイロ付属品の計量カップ(注ぎ口つき)も携行しないと、給油するときにややこぼしがちです。
    このタンクの口はただ小瓶のくちのようなスクリューキャップなので。
    ほんとはその辺の問題も解消した携帯タンクがあるといいのですけどね。
    注ぎ口の形状では、ジッポーフューエルのミニ缶だと問題無いと思うのですけど、この場合携帯中の燃料漏れが心配ですよね。
    ついでに言えば、私が携帯タンクを使う時は、計量カップで量った1回分をタンクに入れています。でないと注ぐときに「適量」かどうか判らないですから。

    返信削除