インテリジェントウインチのテスト風景 IntelligentWinch.com |
ウインチケーブルの乱巻き・片巻はいつもオフローダーを悩ませる問題ですね。以前「ケーブルが乱巻きにならないウインチ」というタイトルでAlliedpower社のAuto-advanceを紹介しましたが、最近新手のケーブルが乱巻きにならないウインチ Intelligent Winch を発見したので、その技術について解説しようと思います。既にTwitter上にこのインテリジェントウインチの話題を書いたのですが、それだけでは判りにくいと思うので、こちらに記事を載せることにしました。
ケーブルが乱巻きにならないためには、ウインチドラムの回転軸と使用中のケーブルの向きが直交していることがポイントです。そのためにこのインテリジェントウインチは、ウインチを縦位置にして作動します。この点では「続・ケーブルが乱巻きにならないウインチ」で紹介したワイス・ミッドスパンウインチのアイデアと同じです。
決定的な違いは、インテリジェントウインチは電制によってドラムの向きを最適化するという点です。まずはYouTubeにポストされたインテリジェントウインチの動画を見て下さい。
ケーブルが正面からは随分オフセットした状態で使用されているにもかかわらず、キレイにドラムに巻かれていく様子が判りますね。でもなぜウインチマウントは終始回転してるのだろう?あのケーブルが通ってる弓形のガイドは何の役目を果たしてるのか?動画を見ただけでは釈然としませんね。インテリジェントウインチのサイトに飛んで情報を探しましたが、イマイチ詳細が見えてきません。そこでパテント情報を検索して、ようやく仕組みが判りました。
①インテリジェントウインチのウインチマウントは電動(ベッド内に別のモーター)回転式で、その向き(回転)ドラムの巻き取り軸と引き出されたケーブルの角度が直交するように制御されます。
②制御のための情報は2種類のセンサーから得ています。
ケーブルの引き出された向きはじめに光学式センサーで判定されます。光学式センサーが弓形のケーブルガイドに配置されています。これと協調して働くもう1種類のセンサーはピエゾ式センサーです。これは力(圧力)の大きさを検出するもので、回転式ウインチマウントの軸受け部とウインチドラムの両端部に複数配置されます。
③この2種類のセンサー情報によって、コントローラー(コンピュータ)がラインの向き、牽引中のウインチマウントに掛かる力のベクトルを判定・演算し、それによって「ウインチドラムとラインが最適な角度(直交)になるように、電動ウインチマウントを回転させます。またドラム両端部のセンサーは、ドラムの端までケーブルが巻かれたときに、ウインチマウントの傾きを変えて「巻きの折り返し」を行うための信号を出します。
パテントを調べた結果、正直言ってこのインテリジェントウインチは事前予想よりもずっとハイテクなものだということが判りました。これはかなり画期的ですね。
インテリジェントウインチの仕組みと機能
さてここまで読んで「う~ん、なんかまだ仕組みが理解できない」という方もいることでしょう。そこでインテリジェントウインチの基本機能を簡単なイラストに描いてみました。
ウインチドラムへのケーブル巻き取りは、引き出されたケーブルの向きとウインチドラムの回転軸が直交(直角に交差する)時には、整然と行われる。横引きのようにケーブルとドラム回転軸が直交しない場合には乱巻きになる。
ウインチドラムが縦置き配置になっている時には、ケーブルが左右に大きく振れた角度であっても、乱巻きにはならない。
反面、ケーブルが天地方向に振れている場合には、縦配置のままでは乱巻きになってしまう。
そこで、インテリジェントウインチでは、センサー情報によってラインの向きを判定し、ウインチマウントを最適な角度に回転させる。これによりウインチドラム回転軸とケーブルは直交し、乱巻きは起こらない。
多分これで判ったゾという方も多いかと思いますが、いかがでしょう?
インテリジェントウインチの長所と短所
このインテリジェントウインチのハイテクがもたらすメリットは以下のとおり。
①ウインチの使用条件に関わらずケーブルは乱巻きされない
だからマスター巻きをする必要が無いし、ジャム(ケーブル噛み込み)の可能性も限りなくゼロにちかい確率に抑えられる。
②斜め引きの際のパワーロスが無い
従来のフェアリードでは急な斜め引きを行うと、ラインはフェアリード部分で屈折して大きなパワーロスになる。
③ケーブルがドラム上で片巻になるリスクが回避できる
片巻はケーブルがドラムから脱線するなど、ウインチ損傷に繋がる深刻なトラブルの元凶。
④延々と斜め引きを続けることが可能
乱巻きにならないので、ラインを使い切る長いウインチングでも、途中でマスター巻きのためウインチング中断の必要が無い。
⑤ケーブルへのダメージが非常に小さい
普通のフェアリードを使わないことと、ケーブルが常に整然とドラム上に巻き取られるためにケーブル間の摩擦も非常に小さいため、ケーブルが長持ちする。
⑥ウインチのパワーを最大限に使える
フェアリード部での屈折による牽引効率低下や、ケーブルの摩擦によるロスが排除されているので、ウインチの出力を最大限に利用できる。
このように画期的な機能を持つインテリジェントウインチですが、もちろん弱点もあると想像されます。まだプロトの段階ですから、現時点で結論を出すのは早計でしょうが、一応書き出してみます。
①構造が複雑
電制ということでセンサーやコントローラーがあるので、それらがオフロードの苛酷な環境で大丈夫なのか?という危惧はある。
②コストは嵩みそう
マウントを回転させるモーター、専用のウインチベット、電制パーツなどコストを押し上げる要素が多い。
③対障害性能は心許ない
使用してないときはすっきりバンパーに収まるので問題無いが、なにせ基本縦位置でウインチを使うし、ウインチマウントが回転するので、使用中には車体フロント部のアゴの下にウインチが出っ張ってしまう点が気になる。
まだ書き足りないところもあるのですが、現時点ではこんなところです。インテリジェントウインチを造ったYair Bartal氏は、このシステムを生産するために協力者(企業)を求めています。興味のあるかたはコンタクトしてみて下さい。ユニークな製品ですから、なんとか市販にこぎ着けるといいですね。
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