2010年7月28日水曜日

サスペンションを考える 第2回(1G接地の真実)


1回ではアーティキュレーション剛性が低いほど、低速クロスカントリーでの地形追従性能が高まるということを書いた。ただし普通の4輪駆動車は自由に捻れる回転軸で繋がれたシャシーを持たないので、アーティキュレーション剛性ゼロというわけにはいかない。そこで今回はソリッドな(そりゃ少しは捻れるのだけれど)フレームにサスペンションという一般的な組み合わせでは、アーティキュレーション特性はどうなるのか?という話をしよう。
サスの話ではよく1G状態という表現が使われる。これはサスペンションに車重以外の力が加わっていないこと、つまりクルマが動いていない(静止)状態を意味する。だからクロカンでの路面追従性能の指標ともいえる1Gでのアーティキュレーションでは、クルマの自重だけによってサスペンションがストロークしている。具体的には、平らな路面に対角線のホイールが落ち込む穴(対角線が乗り上げる盛り土でもいい)を用意し、対角線上のホイールが浮き上がる寸前まで進んだような状態のときが1Gでのアーティキュレーション限界ということになる。
この時サスペンションは4輪の間での(くどいようだが自重の範囲内での)荷重移動だけによってストロークする。その制約のために、サスペンションは伸び側はストロークいっぱいまで伸び切るのだが、縮み側はストロークを残しているのが一般的。これはサスペンションのバネは走行中に(積載時も)1Gよりもずっと大きな入力を受ける必要があるため、1Gでストローク一杯まで縮むようには設計されないからだ。1Gのフルアーティキュレーションといっても、実際はサスの縮み側ではフルストロークを使ってはいない。
1G接地のアーティキュレーション限界を考えるとき、もうひとつ重要な要素は、サスペンション各部に生じるバインディング(binding)だ。このバインディングは主に伸び側のストロークを妨げる。バインディングとは直訳すれば「束縛すること」で、ここではサスペンションの自由な動きを妨げる力のこと。サスペンションはコントロールアーム(リーフ車はリーフ自体がその役目も担う)の配置によって、設計どおりの軌跡を辿って動くように造られているが、この動きを妨げる抵抗がバインディングだ。
コントロールアームの取り付け部分は、アームの役目に応じた自由度(どういう方向に動くことができるかという範囲)が与えられているが、多くの取り付け部分は1平面上をコントロールアームが揺動することを前提に造られており、その平面を離れてコントロールアームを動かそうとする力が加わると、取り付け部のラバーブッシュが変形して対応する仕組みになっている。このラバーブッシュは変形するときに、入力に抵抗するバネとして働くため、サスペンションの動きを規制する力になるわけだ。
フルアーティキュレーション状態のようにサスペンションが可動範囲の限界に近づく動きをする際には、このバインディングは非常に大きな抵抗力を出す。これがどれほどサスペンションの動きを規制するかは、実験すれば一目瞭然。コイルリジッド車なら、シャシーをウマに乗せコイルとショックアブソーバーを外してアクスルの片側をジャッキアップしてみるとよい。
「コイルもショックも無いのなら、いくらでもアクスルは傾くんじゃないの?」と思った方、ハズレです。実はアクスルの傾き限界は、コイルとショック付きのときよりも、むしろ小さくなる。これがバインディングの影響。アクスルを傾ける動きはコントロールアームの取り付けブッシュを強く捻るので、ブッシュが大きな抵抗力(ゴムの弾性)を発生し、アクスルは自由に傾くことができないのだ。コイル付きで試すと、コイルが伸びきるまではアクスルを押し下げる力が働くので、これが多少バインディングを相殺するので、アクスルは僅かに多めに傾くことができる。
バインディングについては連載で改めて解説するが、ここではクロカンでの路面追従性能を左右する1Gアーティキュレーションというものが、ふたつの設計上の制約、つまりバネの設定とコントロールアーム(とブッシュ)のレイアウトによって影響されているものだ、ということを覚えておいて欲しい。
ちなみに記事冒頭の写真は、JB23にしては深いアーティキュレーションを見せているが、これはフロントコントロールアームに細工をして、一時的にバインディングを低減してみたテスト中のショット。

2 件のコメント:

  1. サスを考える第2回。このコメントを投稿する間にまだ3回しか読み込んでおりません、、、何度も何度も読むと考えが深まります。

    バインディング。確かにコイルもショックも外して確認すると、アクスルを上方向に持ち上げる方向には少ない力で動きました。
    伸び側に影響する。言われみれば、片側を止めておいて伸ばそうとすると非常に動かしづらかったです。
    クロカンでのことで考えるとこのバインディングは改善の余地があるということですね。
    第3回も楽しみです。

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  2. このサスペンション連載では、まず本編に入る前に、肩ならしの様な内容から書いて行こうと思っています。おいおいどうチューニングすると良いか?という話も出していきます。

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