2010年7月7日水曜日

パワードトレーラー(PTO driven trailer)


パワードトレーラーは、4輪駆動車で牽引するトレーラーにも駆動力を持たせることによって、より大きな積載能力と6x6並の走破性を持たせるというアイデアで誕生した。その背景には60年代に各国で盛んに研究されたオフロード車両の走破性を高めるアーティキュレート・ドライブ・ヴィークル(関節車などと呼ばれる)の存在がある。アーティキュレート・ドライブはサスペンションのストローク限界の影響を受けずに、駆動輪が常時均等(に近い)接地圧に保たれる構造で、そのことによって極端な不整地でもホイールが浮くことなく駆動を伝達できる。
トレーラーのアクスルは、もともと構造的に牽引車との位置関係がいかに捻れようとも均等接地する。だからこのトレーラーのアクスルを駆動すれば、即アーティキュレート・ドライブが実現できるのだ。この点に目をつけて軍用にリアPTOで駆動するパワードトレーラーが開発された。以前に当ブログの記事「Land Rover - その古き良き時代を見る」にもランドローバーのパワードトレーラーが登場したが、今回は1969年製のVolvo Laplander L3314に装着されたボルボ純正のパワードトレーラーの動画を紹介したい。



Laplander L3314はマニアの世界で有名なC303(75年から生産された)の前身で、こちらはまだアンダースラングでもポータルアクスルでもなく、デフロックも持たなかった。その代わりにリアとトレーラーのアクスルにはLSDが装着されている。なおL3314シリーズはC303デビュー後もカタチを変えて生き残り、C303の廉価版たるC202として本国ではなくハンガリーで生産が続いた。そのためC202も含めたL3314シリーズ全体がラップランダーという愛称で呼ばれる。
この動画でトレーラーを引いているラップランダーはエンジンのコンディションが悪く低速トルク不足に見えるが、十分減速されたギア比を持つクルマなので、本来はもっとスムースに走る。PTOはトランスファーのカウンター側でなくインプットシャフトからスルーで駆動が取り出され、最終的なトレーラー駆動のオンオフはトレーラー側に備わるバキューム作動のドッグクラッチで行う。牽引車との車速同期のためトレーラー側にリダクションギアボックスが備わる。(以前紹介したランドローバーのものは構造が違う。これについては次号LRMで記事を書く予定です。<-宣伝です、読んでね)牽引車からトレーラーへと駆動力を伝達するのは、ランドローバーの場合と同様に2重のダブルカルダンジョイントで、大きな作動角が確保されている。このジョイントの適正な位置決めのために、トレーラーのプロペラシャフトチューブには平行リンクが備わっている。動画では全く空転もせず、パワードトレーラーのトラクションの良さが見て取れる。これは等速協調駆動は前後アクスルだけでなくトレーラーのアクスルにも及んでいるおかげだ。


Amazonでランドローバーマガジンのバックナンバーを探す

4 件のコメント:

  1. 関根 紳雄2010年7月9日 12:13

    ストローク限界の影響を受けないアーテイキュレーションはすばらしいですね。
    3軸の等速協調駆動をもう少し勉強してみます。
    ???があるのですがそれをうまく説明できないのです。
    長年何をしてきたんだろうと考えさせられることばかりです。
    楽しく拝見しました。

    返信削除
  2.  いつもコメントありがとうございます。
     ”ストローク限界の影響を受けないアーテイキュレーションはすばらしいですね。” <ー そうですよね。ずっとピッタリ接地ですから。
    でもだからといって万能じゃないんです。自由に動くということは、その分「ダンピングの効かない動きをする」ことでもあるからです。減衰されない車体挙動がいろいろやっかいなことを引き起こす、というのは関根さんなら容易に想像がつくと思います。
     抵抗なくアーティキュレーションできるということは、バネ上の挙動を抑え込むすべがない、ということにもなりますよね。それがパワードトレーラーというアイデアが限られた用途にしか使われてこなかった理由のひとつなのです。
     でもこのアイデアは廃れてはおらず、最近でも林業用の機械などに採用されているんですよ。

    返信削除
  3. ずっとピッタリ接地で思い出したのは、去年柏崎サンドレースで見たポラリスRZRの動きです。
    ギャップの山から谷へ空転せずピッタリ接地して加速していく。
    あんなに違うのか!?と外から見ていても感じました。
    、、、
    、、、、
    ショックの四方山話楽しみに待っています。

    返信削除
  4. RZRは一応バギーですからね。足はいいですよね。
    でも小さく軽い独懸車なので、結構へなちょこサスでも上手く動くんです。
    あれがもう少し重くてパワフル、ということになると、チューニングは断然難しくなるんです。また重心とバネ下重量によってチューニングの方向性はまるで変わってきます。サス屋的にいうと「モーメントとフォースの折り合いをつける」というような見方が必要になるんです。
    そのレベルの話は別としても、ショックアブソーバーやサスペンションに関しては、書くべきことが山のようにあります。いずれ少しずつ紹介して行こうと思ってます。

    返信削除