2010年6月5日土曜日

シンセティックロープ PART 3

ウインチとシンセティックロープの関係

ポピュラーな普及品Amsteel Blueの装着例
あえて旧式なスチールワイヤーを選ぶのも正しい
強くて軽くてしなやかなシンセティックロープは魅力的だが、ウインチのドラムに巻いて使うなら、オールドスタイルのスチールワイヤーの使い勝手も捨てがたい。噛み込んだり、ささくれだったり、キンクしたりという旧弊やその重さに目をつむるなら、少々岩を擦ろうがウインチ本体が熱を持とうが気にせずに使えるワイヤーのタフさはやはり頼りになる。正しくウインチを使いこなす技術を持つ人なら、既に長い実績のあるスチールワイヤーの方が信用できると思うことだろう。私自身もウインチロープは「どちらを選んでもいい」と思っている。扱いやすいシンセティックロープも、ヘビーに使うには色々と注意すべきことがあるし、コストだって嵩む。ただしウインチング時のエクステンション(延長)ロープとして使うには、シンセティックロープが断然有利なので、こちらの場合はもう敢えてワイヤーを使うという時代ではなくなったと思う。
ウインチにシンセティックロープを使うという選択
ウインチをエクストリーム競技で使うのなら、ウインチロープにはシンセティックが最適。軽量かつ圧倒的な引っ張り強度がものをいう。巻き取りを高速化する改造を施された競技用ウインチでは、ワイヤーはしばしば巻き取り時のショックで切れてしまう。またワイヤーは頻繁にジャムを起こすので、これも競技ではロスの元。しなやかなシンセティックロープはドラムでジャムを起こしにくいし、高級ロープならワイヤーと同程度の径で引っ張り強度は2倍以上もあるのだ。ロッククローリング競技では足場の悪い岩場で素早くウインチラインを設置しなくてはならないから、シンセティックロープの軽さは重要だ。ではそれ以外の普通の使い方ではどうか?そこでは「熱」の問題を考えなくてはならない。電動ウインチはヘビーに使うと驚くほど発熱するからだ。シンセティックロープの非常に大きな引っ張り強度も、高温(人が触って熱いと思う100度くらいから)状態では著しく性能低下するのだ。ほんの数メートル引けばスタック脱出できる、というような条件でしかウインチを使わないという人(多くの人はそうだが)なら熱は問題にならないものの、ヘビーに使うとなると、「並の」シンセティックロープでは役者不足は否めない。





熱でロープが溶けた痕跡が残るドラム
熱はシンセティックロープの大敵
電動ウインチの発熱というと高負荷時のモーター発熱をイメージすると思う。もちろんそれもドラムに伝わって悪さをするが、ヘビーなウインチングでは、もうひとつ深刻な熱源がある。それはブレーキの発熱だ。ほとんどのウインチには牽引中の逆転を防ぐセルフブレーキが備わっている。例えば急勾配を引っ張り上げる作業や、自走で下れない崖をウインチダウンで降りるようなときは、このブレーキがフル稼働する。もっと身近な例だと、皆さんは普通、「負荷の掛かった状態」では断続的にウインチリモコンを操作すると思う(それが正しい使い方だ)が、その瞬間毎にもブレーキは掛かるので、ウインチの動き始めには「ケーブルに掛かる荷重+ブレーキの負荷」を上回る仕事をしなくてはならない。それゆえブレーキの発熱は看過できない問題になる。
ウインチのブレーキは構造上、正転・逆転とも、モーターの駆動力によってオーバーライドされないと解除されない。だから回転が止まる度にブレーキが掛かる。そして都合の悪いことに、ほとんどのウインチでは、この熱源であるブレーキはロープが巻かれているドラムの直下(内部)に位置する。ブレーキメカをドラム外に配置した「シンセティックロープ向き」といえるタイプのウインチも市販されているが、これは少数派。そういうわけで、ヘビーユーザーの場合には、ウインチロープには耐熱を考えた特別な仕組みが必要になるわけだ。
Master-PullのスーパーラインXDはヒートプロテクターを標準装備する
シンセティックロープの熱対策など
特別な仕組みとは、高級シンセティックロープに見られるウインチロープ本体をカバーするプロテクション・レイヤー(保護層)だ。それはヘビーデューティな製品だけに見られる、芯線に保護用の編み線を被せた2重構造だ。(カーンマントル構造と呼ぶ。また、そのため外観上は編み線でロープができているように見える)この編み線が、紫外線による劣化、摩擦による強度低下、砂などの異物の侵入などを防ぐだけでなく、芯線への熱の伝搬を妨げる役目も果たす。またこの外側から締め付けるカタチの2重構造には、限界荷重付近の高負荷時にもクリープ(ロープを構成するファイバー間の摩擦力が不足で滑る現象)を起こさないというメリットもある。さらに、ウインチロープ専用設計の製品では、ドラムに直接触れる1巻目部分(最も熱を受けやすい)には耐熱・断熱性の高いノーメックスなどの特別な材質でできたプロテクション・スリーブが与えられていたりする。オフロードに出掛けたら必ずウインチを使う、というような武闘派にはやはりこういう製品が安心だ。こういう機能のない低価格帯の製品の場合は、別売されるヒートプロテクション・スリーブを後付装着するのが安心。なおウインチ用のシンセティックロープには、どの製品も摩擦からロープを守るアブレーション・スリーブというものが付属しているが、これとヒートプロテクション・スリーブは別物なのでお間違えなく。
シンセティック・ウインチロープとフェアリードのセット(ラムゼイの例)
ハウズフェアリード
シンセティックロープは大きな引っ張り強度を持つが、刃物で簡単にカットできる素材でもある。鋭利な角に押しつけられれば簡単に傷つく。だから砂や泥がついたまま巻き取らないよう注意が必要だし、路面などと触れる場合には摩擦から保護するスリーブを被せなくてはならない。また剪断に対する抵抗力も低いので、角が鋭利でなくとも急角度に曲げた状態で引くと破断しやすい。それゆえフェアリードには表面が滑らかで、おおきなRでロープをガイドするものが必要。一般的なローラーフェアリードでも表面に傷などがなく滑らかな状態なら使えるのだが、フェアリードのフレームの角にシンセティックロープが噛み込むリスクがあるし、ワイヤーで使い込んだローラーは傷ついていたりガタが生じていることが多い。どうせ新品に交換するならアルミ製のハウズフェアリードに替えるのが良いだろう。とりわけ保護被覆のないソフトなシンセティックロープを使う場合にはハウズフェアリードは必須。












0 件のコメント:

コメントを投稿