2010年5月20日木曜日

カッティングブレーキ PART 1


トライアルやロッククローリングで使われるカッティングブレーキだが、なぜカッティングブレーキと呼ばれるのかご存じだろうか。ある友人が「ブレーキラインちょん切って装着するからだろう」と言って皆を笑わせてくれたが、実はこれ、ほぼ正解なのだ。なぜかというと元々 Cut - in Brake が、Cutting brake の語源だから。といっても Cut - in は「ちょん切る」のではなくて、「割り込む」という意味なのだけど。つまり通常のブレーキ回路の働きに必要に応じて割り込んで機能させるので Cut - in  なのだ。
前の記事「スポーティング・トライアル」のコメントへのレスで、英国では fiddle brake とも言うと書いた。英国口語では「ズル」なんだけど、フィドルというのはバイオリンの別名でもある。(というか口語以外だとこちらが普通の意味)確かに、滑る路面で必死にトラクションを求めて、せわしなくレバーを押したり引いたりする様は確かにフィドルの早弾きを思わせるものがある。
トラクターからバギーへ
カッティングブレーキは別名ステアリングブレーキとも呼ばれ、元はといえば農業用トラクターの小回り方向転換のために考案されたもの。自動車に使われるようになったのはサンドバギーが登場してからのこと。リアエンジンのバギーはフロント荷重の小ささゆえに、しばしば旋回困難な状態に陥る。また軽量で走破性が高いといっても、2WDなので一旦駆動輪が潜ってしまうとオープンデフでは発進不能になることもある。そこで知恵者がトラクターのアイデアを持ち込んだわけだ。
カッティングブレーキによって、バギーはステアリングの自由度を増し、登りでフロントが宙に浮いていてさえ方向を変えられる圧倒的機動性と、滑りやすい(または潜りやすい)路面での手動トラクションコントロールという隠し技を獲得した。ただしハイスピード域でのカッティングブレーキ使用は非常にトリッキーな挙動となるため、レーシングバギーでは一般にカッティングブレーキでなく各種のLSDが使用されている。
カッティングブレーキの仕組み
カッティングブレーキは手動で操作する2個(2系統というべきか)のマスターシリンダーで、これを通常のブレーキ油圧回路に割り込ませて左右別々に(後述するように4駆の場合、昔はフロント左右に装着した)ブレーキングできるもの。これで一方のホイールを止め、デフの働きによってもう一方にのみ駆動力が伝わることで旋回モーメントを生む。パワーオン状態でないとあまりモーメントは大きくはならない。1輪が浮いた状態でのトラコン効果ももちろん有益ではあるが、半スタック状態のようにクルマが前進していない時には、前後輪の等速協調性が乏しい(浮いている側を止めると接地側は他のホイールより速く回ろうとする)ため、LSDやデフロックのトラクションには及ばない。
4x4トライアルとカッティングブレーキ
4x4トライアルとカッティングブレーキの出会いは、偶然とも必然ともつかぬ成り行きからだった。80年代半ば、小生は仲間のgaw氏(本名でいいかと思うけどwebなんで一応)と一緒に4輪駆動車雑誌を作り始めた頃で、編集稼業の役得で、その当時自動車技術の最先端であったトラクションコントロールなどのハイテク情報を見聞きすることのできる立場にあった。だから「ブレーキを掛けてトラクションを得る」ってのはアリだな、というのがいつも頭の隅にあった。
そんな折、アメリカ取材でパーツショップを覗いてまわっているときに、バギーショップにゴロゴロ置いてあるカッティングブレーキを見て、「あ、これは使える!なんで今まで気づかなかったんだろう」と思った。当時は4x4トライアルの黎明期で、我々の本でも随分肩入れしていて、企画でORSジムニーなんてのを造る計画もあったので、さっそく輸入して試してみることにしたのだった。
なにせ昔のことなので、トラクションディバイスなんてせいぜいリア用のLSDがあるくらいで、フロントはオープンデフのままだったから、そこにトラコンとしてカッティングブレーキを使ってやろうと思ったのだ。その結果は?なんて聞く人はいまい。その後カッティングブレーキはトライアル車の標準といえるほど普及したのは誰もがご存じのとおり。
PART 2 ではトライアルでのカッティングブレーキ・テクニックについて紹介します。

2 件のコメント:

  1. こんにちは
    フィドルの意味を聞きながら、昔トライアル会場ではあちらこちらで三味線を弾いている方たちが多かったことを思い出しました。あはは。ちょっと意味は違いますがなんとなく面白く感じた次第で。

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  2. どうもgawさん。いつもHTML記述に関するアドバイスありがとうございます。そういえばトライアル会場って三味線の嵐でした。小さなコミュニティでしたから、仲間同士でじゃれ合ってた、って感じですね。

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